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KDDI社長交代が正式発表、新社長の松田氏は「つくば万博」で科学に目覚めた人物
2025年2月5日 21:52
5日、KDDIが新社長人事を発表した。2018年4月からリードしてきた髙橋誠氏に代わり、2025年4月1日から、松田浩路氏が代表取締役社長CEOとなる。
同日午後、決算会見のあとに開催された会見では、髙橋氏がこれまでの振り返りや、松田氏を後任に選んだ理由を語ったほか、松田氏が自身のことをあらためて紹介した。
中学生の松田少年が訪れた「つくば万博」
1971年11月生まれ、山口県出身の松田浩路氏は、1996年に当時の国際電信電話(KDD)に入社。社会人としてのキャリアは通信会社のエンジニアとしてスタートした。
2013年に商品技術部長、2015年に商品企画部長、2018年にコンシューママーケティング1部長など、高速化するモバイルインターネットの技術開発や商品開発に従事。3Gから4G、5Gのローンチ時にネットワークや商品作りの観点から携わってきた。
エンジニア→コンシューマー向け→新規分野とKDDIへ貢献してきた松田氏だが、自身の社会人としてのスタート地点もあって「技術は自分のコア(核)にある」と語る。
大学時代は工学部にあたる学部で学んだ松田氏。5日の会見で、技術に関心を持ったきっかけは? という質問に挙げた答えは「1985年のつくば万博」だった。
つくば万博は、その名の通り、茨城県で開催された国際技術博覧会のこと。当時は“科学万博”などとも呼ばれ、未来を身近に感じさせ、さまざまなメディアで話題となる。当時、中学生だった松田氏は、山口県からブルートレインに乗って見に行ったのだという。
松田氏
「会場で日本企業のブースを目にした。いまでも実家にあるのは、NECのC&Cパビリオンのプラモデル。京セラの“不思議なサイエンスキット”として形状記憶合金やセラミックをパッケージにして配っていた。これらが技術というか、科学に興味を覚えた。今年は大阪・関西万博がある。KDDIは日立さんと一緒に出展するが、未来の人材が科学に興味を持ってもらえないかと思っている」
こうしたバックグラウンドに、高橋社長も「技術畑で、ひとつのことへストイックに取り組む」人柄だと語る。
また、松田氏はスターリンクとKDDIとの協力関係構築のキーパーソンでもあったと髙橋氏は説明。それだけではなく、アップル、グーグル、クアルコムといった企業との交渉のほとんどで、松田氏が担当してきた。グローバル企業のトップ、特にAI企業のトップは若く、今後のKDDIにとってグローバルでパートナー企業とやり取りするなどグローバルでの視点が欠かせないことから、松田氏を後任に選んだ。
松田氏自身、スマホ時代以前、国際標準化での周波数に関する取り組みで「どこを落としどころにするか、交渉の要諦を学んだ」という。
LTEに初めて対応した「iPhone 5」の際には、「周波数でも非常に苦しんだ。先方との協議もあるが、社内が『やらなきゃいけない』と一丸となった。その力を実感した」(松田氏)とのことで、海外企業とのタフな交渉と社内での動きを対応していったことが、成功体験のひとつと振り返る。
7年の社長職、髙橋氏が挙げた「もっとも印象に残ったこと」
2018年4月~2025年3月末と、7年間にわたり社長の座を務めてきた髙橋氏。
質疑で「7年間を振り返って、手応えのあったことは?」と問われると、「本当にいろいろありすぎた。社長になったあと、(北海道がブラックアウトした)北海道胆振東部地震があり、昨年は能登半島での地震があった」と、まず災害対応に触れた。
その上で髙橋氏が「一番印象に残ったこと」として挙げたのは、2022年夏の通信障害と2024年のOpenSignalによる通信品質の高い評価を獲得したことだ。
髙橋氏
「みなさまへご迷惑をおかけし、本当に申し訳なかったのですが、そこから技術陣と一緒になって(取り組んだ)。ネットワークで一番になりたいと考えて、OpenSignalの調査で一番を獲得できた。技術陣が昇華してくれたことは僕としても嬉しい」
2022年夏の通信障害では、携帯電話としてのサービスだけではなく、運送、自動車向けサービス、コンサート・映画などのチケット(2次元コード)、気象データの収集、銀行ATMなど、幅広い範囲に影響が及んだ。裏返せば、さまざまな業務・システムでモバイル通信が活用され、浸透しているということでもある。
髙橋氏は「(社長就任時)ライフデザインと通信の融合と唱えていたが、すべての事柄に通信が入ることを前提に、いろんな産業へ事業を拡大する。その礎が作れたのではないか」と手応えを感じている様子。
では、KDDIだけではなく国内の5Gという観点ではどうか? という問いに髙橋氏は「今の携帯各社は皆、頑張っていると思う。通信料は、米国の1/2という水準まで下がった。諸外国は値上げしているなかで、日本では必死で設備効率を上げて、5Gに投資してきた。日本は世界と比べても、本当に素晴らしい品質だと思う」と評価。
さらに、5Gならではのユースケースがないのでは、という指摘もあるが、と前置きした髙橋氏は「全然そんなことはない」と一蹴。
髙橋氏
「トラフィック(通信量)はバンバン伸びている。ちょっとこれから危険だなと思うぐらい。KDDIでも20%弱まで占めている。特に最近、YouTubeを中心として伸びがものすごい。そういう意味では、5Gのユースケースは明らかになってきている」
では、松田氏へ交代して以降はどうなるのか。髙橋氏は「AIの時代は、AIとのレスポンスが重要。(真の5Gとも言われる)5G SAを含め、レイテンシー(遅延)が6GやAIの時代ではすごく大事になる」と指摘する。
「通信業界では、5Gの次は6GではなくAIと言われるほど」(髙橋氏)であり、スマートフォンなどからAIエージェントを利用するようにしていく時代が間近に迫るなか、通信品質面でも次代に向けた基礎を構築できたのでは、と語っていた。
質疑を終えて、松田氏と髙橋氏はフォトセッションに対応して退出。報道陣も会場を去ろうとするなか、ふと髙橋氏が会場となった部屋へ戻ってきた。会長となっても、代表権は保持し、政財界に向けた活動や、スタートアップへの関わりは続けたいと語る一方、「僕が56歳、前任の田中が54歳で社長になた。もっと若い社長を、ということはずっと思っていた」と述懐。
2024年を通じて、複数の後継者に絞り、次の社長を選ぼうとしていたところ、最終的に松田氏が選ばれ、2024年11月ごろに伝えられた。別件で呼ばれたのか、と社長室へ向かい、次期社長になることを告げられたという松田氏は「(社長を選定するための)委員会へ推薦するという話があった。その場でリアクションをなかなか取れず、固まってしまった」という。
KDDIでは2025年度が、現在の中期経営計画の最終年度。最後の1年を新社長が引き継ぐ、というのは髙橋氏も辿った道でもある。新社長にとっては前任者の敷いた道にひとまず沿いながら、自身のリードでどんな未来像を描くのか、いわば1年の余裕を持てることになる。
松田氏は「消費者のお客様のことも、コンシューマー向け事業に1年前まで携わっていたので、理解しているつもり。今の中期経営計画をしっかりこなし、経済圏も拡大し、通信を強化しながら、さらにその先については、また話す機会を設けたい」と述べ、社長就任後、あらためて自身のビジョンを語ることを示唆した。
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