【MWC Barcelona 2025 】

ドコモ前田社長が語る未来戦略──HAPS商用化、AI活用、銀行と料金プラン

 MWC Barcelona 2025に合わせ、NTTドコモの代表取締役社長 前田義晃氏がインタビューに応じた。MWCの同社ブースでもアピールしていた26年に商用化を目指す「HAPS(成層圏プラットフォーム)」や、参入することを表明していた銀行業の進捗状況、さらには料金プランのあり方やAIを活用した新サービスについて、幅広く語った。その主なやり取りは以下のようになる。

ドコモの前田社長がインタビューにこたえた

――社長としてMWCに参加するのは初めてですが、どう見られましたか。

前田氏
 いろいろな企業の皆さんの中でも、特に欧州、韓国、中国勢の勢いがすごいと思いました。最近は我々とのおつきあいはなくなっていますが、ファーウェイさんはやはりすごい。あのスケールでありとあらゆるソリューションを作っていきますという展示になっていました。

 昨年のことは話を聞いていただけですが、今年もAIだなと思った一方で、そのAIが割と実用というか、実装というかに振っている段階のように見えました。また、オペレーター中心にAPIをオープンにして、ゲートウェイにする話が出ています。そこでもう1回マネタイズしようという流れがありますよね。

――KDDIは積極的にネットワークAPIに取り組んでいる印象ですが、ドコモはいかがでしょうか。

前田氏
 そこでオリジナリティを出してもあまり意味がないので、組み合わせでいろいろな方と一緒にやっていけるかを考えながらだと思います。こちらが用意して「使ってください」と言っても、本当に使われるのか。ちゃんとニーズを組み合わせていかなければなりません。KDDIのブースでは、「ここは協調領域なので一緒にやりましょう」と言われましたが、確かに「そうだよね」とは思いました。

――サービス側との連携ができるという意味だと、前田さんの経歴が生きてくるのではないでしょうか。

前田氏
 今まではどちらかと言うと、ネットワークのところに行く前に片付いていました。ただ、ネットワークの話が出てくれば、そうだと思います。それこそ、皆さんが撮影した写真をどんどん送れるよう、帯域を保証するAPIのようなものはあると思っています。

――ネットワークにAIを入れてという話も各所で見られますが、ドコモとしてはAIの取り組みは何かありますか。

前田氏
 NTTグループであることもあり、それぞれの領域ごとにある種の役割分担があります。本当はもっと全体で(MWCに)出した方がいいのではないかとも思いました。我々のところでサポートできる領域で言うと、AIをどう価値にするかです。インフラの話やLLMはNTTグループで言うとNTTデータがやっていたり、LLMの開発は持ち株がやっている。その上のレイヤーで、フロント側でどういうソリューションやアプリを作るか(がドコモの役割)になっています。

 今回、うちで出したのは、生成AIというより、データからどうユーザーをあぶりだすかという事例です。やはり海外の展示会なので、海外のビジネスに直結するようなことをできる限りご紹介したかったことがあります。AIの話でいうと、日本で電通さんとやり始めた「DOOH(デジタル屋外広告)」があり、位置情報と属性データを使ってAIでターゲッティングしていくという取り組みはベトナムでもやり始めました。

MWCにもDOOHの取り組みは「docomo AI」として出展している

 そういう意味ではOREX SAIにはがんばってほしいのですが、グローバルで見ていても取り組みとして進んでいるのがHAPSです。将来的には、我々の取り組みが進めば海外でのビジネスにもつながっていきます。ただ、先ほど申し上げた海外企業の存在感と並べるよう、もっとドンと出していくことはやったほうがいいですよね。

――HAPSですが、26年の商用化は間に合いそうなのでしょうか。

前田氏
 ご心配をおかけしていますが、何とかケニアでは試験ができました。手続き上の問題はありますが、結果として13日間飛んで、そこから通信ペイロードで中継局、スマホの両方と通信する試験は行いました。ダイレクトアクセスでは、4.66Mbpsの速度が出ています。こうした試験は繰り返していきます。

 26年に商用化したいという目標は変わっていません。とは言え、最初は低緯度のところからやらざるをえないでしょう(日照時間が長く、ソーラー充電しやすいなど、条件がいいため)。だいぶ南側からになると思っています。

――使い方としては、緊急時だけでしょうか。それとも常用してエリアを広げるイメージですか。

前田氏
 もっと緯度も上げることができ、全体的にカバーできるのを前提にすると常時になります。山間部や島しょ部など、そこに基地局を打つ余裕はないという場所はままあります。HAPSで通信品質もそこそこ出てサービスが提供できるとなれば、エリア作りの効率性も変わってきます。災害のときだけだと、とっさのときに使えるのかという話もあります。平時から使っていけば、災害で地上局が落ちたときでも普通にHAPSが使えるということが実現できます。

HAPSは、26年に商用化予定。それに先立ち、ケニアでの実験にも成功した

――KDDIはStarlinkとスマホの直接通信を始めますが、LEOとの直接通信はやらないのでしょうか。

前田氏
 もちろん同じことはやろうと思っています。ただ、エアバスやAALTOとやっているHAPSにも、まだまだ進展の余地があると考えています。今回、能登との連携協定も結ばせていただきました。数年後、HAPSが商用化され、空の上を飛んでいることを前提に、今から何がどういう使い方ができるのかを皆さんとお話しして、それを反映できればと思っています。

 日本の中で技術開発が進展したり、オリジナルの機体が作れるところまで広がっていけばいいですよね。そういうところも見据えたいと思っていますし、可能性もあると考えています。LEOも重要ですが、こちらはグローバルプレイヤーにお願いしながらになります。逆にHAPSは自らハンドリングできるところが面白いと思っています。

――話はガラッと変わって銀行の件ですが、そろそろ目途が立ちそうでしょうか。

前田氏
 まだ正直言えることがありません。(NTT(持株)社長の)島田が自ら作る可能性もあると言っていましたが、確かにそれも選択肢のうちの1つです。今年度中に目途はつけたいと申し上げていたので、急がねばという思いはあります。

――やはり作る方向でしょうか。

前田氏
 それも含めていろいろ考えています。ただ、一長一短ですね。作るのは相当な時間がかかりますが、島田が言っていたように、買うとなると、「それはいらない」という話も出てきてしまいます。

――住宅ローンとかは不要でしょうか。

前田氏
 住宅ローンは重要です。オリックス・クレジットでもやっていますし、そこはまだまだこれからです。最近は、不動産屋に相談し、ローンの話をすると真っ先に出てくるのがauじぶん銀行ですから……。

――そこでローンを組まれてしまうと、回線も奪われてしまう可能性が。

前田氏
 住宅ローン自体ではまったく儲からないと思いますが、そういう広がりがあるのでうまくやられているなと思います。

――ここ最近、料金値上げの可能性について他社が言及することが増えたと感じていますが、ドコモがahamoを30GB化した恨み節もありそうです。ドコモとしてはいかがでしょうか。

前田氏
 あれは、実質値下げみたいなことをしたいと思ってやったわけではありません。ahamo自体、出てから時間が経ち、お客様からすると物足りなくなっていましたし、ご説明したとおり、解約率が上がっていのでまずそこを止めないと、どんどん顧客基盤が毀損されていくので、大きく取り組まねばと思っていました。30GB化は、そこに手を付ける意味でやらせていただきました。トラフィックも年間2割、3割増えているので、5年も前にやったことがそのままなのも正直どうかと思うところはあります。

 確かに皆さんがおっしゃっているように、値上げ自体が悪だとは思いませんが、それは、お客様が払ってもいいと思える付加価値があることが前提です。そういう展開のしかたは考えていく必要があります。全体として物価が上がり、コストも上がっているので、業界に携わるものとして、パートナーも含めてシュリンクするようなことはしたくありません。そのためには、付加価値を乗せたうえで価格を上げていくことは必要です。

 そもそも、我々は販売代理店の皆さんにお願いしながらやっています。各社経済圏で(料金プランを)やっていますが、代理店の方にとってもここが成長領域になるようにしたい。通信だけで作れるものではないので、そこに取り組むことにご協力いただき、全員で儲かるようにしたいですね。

値上げに対する考えを語る前田氏

――ドコモもポイ活プランをやっていますが、それも1つの値上げのしかたですよね。

前田氏
 (ポイントを還元すると)財務処理的には売上から引かれてしまいますが(笑)。ああいうところを入り口にして、通信も使い放題の方がお得でいいよねとなれば、そちらに移ってもらえます。金額的に厳しいからと、“ギガ”がなくなるのをビクビクしながら使うよりよっぽどいい。トラフィックが上がっているのは、それだけ用途が広がっているからです。そのベースである通信をどんどん使っていただけるプランに入ってもらうためにも、ポイ活のようなものが大事になります。

 ポイ活プランも70万ぐらいになり、着実に、かつ堅調に成長しています。組み合わせでいうと、「dカード PLATINUM」との相性がものすごくいい。あちらも、40万契約が見えてきています。国内のイシュアでプラチナカードをやっているところは、一番多くても70万契約ぐらいです。3か月も経っていない中で、ここまでくることができました。ネットでGOLDから切り替えている方もいますが、店頭でまとめてポイ活に入ればこんなにお得になるということが言えるので、ドコモショップとしてもおすすめしやすいと聞いています。

――PLATINUMは還元率がものすごく高いですが、あそこまで還元して儲かるのでしょうか。

前田氏
 通信の方では儲けられますし、PLATINUMは1人あたりの取扱高がかなり大きくなり、手数料収入も伸びます。あらゆる決済をそこに寄せていただくようなことをお勧めしていますが、まとめていただければ単金も上がりますし、使い続けていただけます。

――ポイント経済圏が生きてますね。

前田氏
 そうです。AIエージェント導入の流れでも、やらなければいけないことです。

――どういったAIエージェントでしょうか。

前田氏
 お客様がインタラクティブに対話するようなものも大事ですが、ドコモはこれだけデータを持っているので、それを使って、先回りするようなエージェントを各サービスに実装することができますし、サービスを一気通貫して生活に寄り添うようなものも作れると思います。なるべく年度内には、そういったサービスをスタートしたいと思っています。

――ドコモと言えば、「iコンシェル」や「しゃべってコンシェル」など、エージェント的なサービスにたびたびトライしてきましたし、前田さん自身が担当されていたこともあると思います。羊(ひつじのしつじくん)が帰ってきたりするのでしょうか。

前田氏
 それだと、「お前がノスタルジックに浸りたいだけだろ」と言われてしまうので、そういうことはしません(笑)。今の若い人に、エッジが立ったものを作ってもらうようにします。

――端末としてメーカーがAIを実装している例もありますが、そういったものも活用していくのでしょうか。

前田氏
 ドコモとして、コアなAIエンジンを自ら作るわけではありません。グループの中にはtsuzumiもあるので、それを活用できるならする可能性もあります。そうではなく、OpenAIでやるかもしれませんし、Geminiを使うかもしれない。パートナリングの中で、そのときにいいものを活用していく方針です。

――どの部署で開発しているのでしょうか。

前田氏
 コンシューマサービスカンパニーの中に、そういうプロジェクトを立ち上げています。おじさんだと困るので、ちゃんと若い人にやってもらっています。うちもdocomo STARTUPをやっていて大会を開きましたが、あれはいいですね。3年目でチームを作ってピッチをやってもらいましたが、ちゃんと考えているメンバーが多い。スタートアップとして外に出られなかったとしても、そのままサービス開発部署に入れたいと思えたぐらいです。

――通信品質の改善状況はいかがですか。

前田氏
 まだまだですが、ただ、最繁時間帯でも去年に比べればだいぶよくなりました。特に都内の西側はよくなっています。

――都内の西側でいうと、渋谷で5G SAのエリアがかなり広がっていました。スポット的な状況ではなくなりつつあると思いますが、これをもっとも活用して品質を上げていくというような話もあるのでしょうか。

前田氏
 5G SAは基本的には広げていきます。広げていきますが、NSAの方が通信品質的には安定することもあり、今の品質を考えると、かたっぱしから5G SAにするタイミングではありません。先日、東京ドームシティでスポット的に4Gが厳しくなるところに5G SAを入れましたが、ああいった使い方はかなり有効です。人が集中するところでは、対策を進めていきます。アリーナなど、人がいっぱい来るところに5G SAが入れば、スライシングで特別な用途に使うこともできますし、そのニーズはあると思っています。

――ありがとうございます。

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